二十年後のクリスマスイブ
 新井に…いや、《南風》二十年後、運命の永いクリスマスイブが今、始まった。

 まるで、桐人を彷彿させるような分身が、カウンター越しに辺りを見回しながら近づいて来て新井の前で会釈した。

「末椅子って云う事は、君は桐人の息子さんかな?」

 新井は、濡れた手を慌ててエプロンで無造作に拭きながら訊ねた。

「はい…そうです。それじゃ、此処は父が言っていた場所で間違い無いのですね…」

「ああ、その通りだよ。でも、今日は君のお父さんが此処に来る事になっている筈だが、まさか息子さんが先に此処に現れるとは本当に驚かされたよ…もしかして!お父さんに何かあったのかい?!良かったら事情を聞かせて欲しい。まぁ、立ち話しも何だから、そこに座ってくれないか、何か飲みたい物は?…」

 狼狽した新井は自身を落ち着かせようと注文を拓真に聞いた。

「父が此処で飲んでいたブレンドの珈琲を戴けますか?」

「お父さんが何か言っていたのかい?」

「一番美味い珈琲だと言っていました…」

「世辞か上手な親父になったかな?あいつは…」

「父の本物を見る眼は確かですよ…」

 拓真が笑みで答えた。
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