先輩、次こそ『壁ドン』やります! 【壁ドン企画】
そんな千夏先輩だけど、飲み会のときだけはよく係長に『おまえもたまには働け』って叱られてる。というのも、職場のみんなと飲みに行くとき、千夏先輩はひたすら飲んでるか食べてるかだけの人になるからだ。

大皿料理を人数分取り分けたり、おしぼりや割り箸を配ったり、そういう『飲み会での女の子の花形的な作業』はいつも何すればいいのかわからなくて戸惑ってる新人の後輩にこっそり振ってあげて、しかもみんなの前で『さっすがユミちゃん、気が利くねー』なんて褒めてあげてる。

自分はモテないキャラに甘んじて、それをネタに後輩からもイジられても「あたしおっさんですから。かわいい女の子に世話されるのサイコー」って言って、いつも誰よりもたのしそうにビール飲みながらほがらかに笑ってる。

やさしすぎて、気が回りすぎて、損な人。

9歳上とか全然頭になく、俺はただそんなあったかい人柄にいつの間にか惚れていた。

ほんとは、もっと一緒にいたいですって言いたい。
明日は土曜で休みなんだし、俺はまだちな先輩と過ごしたいって。

でも俺は臆病者だから。二軒目誘って断られたり、もし迷惑そうな顔されちゃったりしたら、玉砕レベルの衝撃を食らうだろう。

だから名残惜しい気持ちをうんと押し殺して、「そうしましょっか」って笑ってあっさり引き下がることしか出来ない。これがここ2,3ヶ月の、いつもと変わらない千夏先輩との飲みのシメ方だった。

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