それは…好きだから。(彩佳side)
 この三週間は会っていないし、大事な商談で忙しいって言っていたから、
 極力わたしからは連絡しないようにしていた。

 時々樹生からメールはあったけど、負担にならないよう返事も手短に済ませていた。
 だから最近じゃない。

 だったらその前のデート。食事の時? ソファで寛いでいる時? 
 それとも……ベッドの中で? 

 わたしは必死に記憶を手繰り寄せる。だけど、どうしてもその場面は思い出せない。


「もしかして……忘れていたとか?」

 ズバリ言われて心臓が飛び跳ねた。

「あのっ……」

 どうしよう。
 彼との大事な約束を簡単に忘れてしまう、いい加減な女だと思われたら……
 何か言い訳を、と考え巡らせたけれど。

 樹生の静かで射るような瞳を見てしまったら、自分の心を上手に繕うことなんて出来ない。

「ごめんなさい」

 愛想をつかされてしまったとしても仕方がない。
 わたしは正直に謝った。

「俺との約束を忘れて、他の誰かと出掛けるってことは?」

「それはないけど……ごめんなさい」

 俺との約束を忘れて……樹生の言葉にズキッと心が軋む。

 怒らせてしまったんだろうか? と思ったけれど、
 次に見せた彼の表情が柔らかくなっていて、優しく笑ってくれたから、少しホッとした。

 いつもの樹生に戻ってくれたみたいで嬉しい。

< 8 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop