多重人格者【完結】
馬鹿の一つ覚えの様に、俺はその質問を繰り返す。
今の状況が全く把握出来なかったんだ。


それにピタッと、足を止めると“そいつ”は無表情になった。


「…さあ?」


薄く笑ったその顔にビクっとした。
瞳に吸い込まれそうで、俺は目を逸らす。

なのに、“そいつ”はわざと俺の顔を覗きこむと

「心君、今日は楽しかったよ…?」

そうやって、“あやめ”の顔で笑った。
声色も“あやめ”の真似をして。


「あ、心じゃないとダメだったんだ。
ごめんね、心?じゃあ、またお願い聞かないとね?」


あはははっと、再度高笑いすると俺の横を通り抜けて部屋から出て行った。


体が…動かなかった。
こんなに誰かを怖いと思うのは初めてだった。

とにかく、救急車呼ばないと。
泡吹いてる奴もいる。

どれだけ…。
どれだけ殴ったらこんなになるのだろうか。
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