サクラと密月




屋台がないエリアだからか、あまり人が居なかった。


しばらく木の下にあるベンチに座ることにした。


私が居なくても大丈夫。居ないほうが彼女には好都合なんだろう。


そこから空を見上げる。


夜に白く浮かぶ桜。


微かに甘い香りが立ちこめる。


いいなぁ。

 
最高、ここがいい。


風で枝がざわめくと隙間から月が見えた。


すると後ろから足音が近づいて来た。


「探しましたよ。何やってるんですか。」


和彦だった。


月明りが彼の顔を照らす。


私は慌てて言い訳をする。


「トイレ探してたら、こんな大きな桜の木があったからつい見とれてしまって。


ごめんなさい。」


「大丈夫ですよ。それより本当凄いですね。」


そう言って彼も私の横に立った。


そして同じ様に空を見上げる。



「こうして見るといいなと思って。今夜は月も見える。なんか街の中じゃないみたい。


ここだけ。」


そう言って笑いかけてみた。



その時不意に、和彦に抱きしめられたのだった。



あまりに不意だだったので、周りの音もなにも聞こえなくなった。


大きな温かい両腕。


男性の腕の中がこんなにもあたたかいなんて知らなかった。


でも、なんでこんなことに。



彼の肩ごしに風に揺らめく桜の枝。


きつく抱きしめられたので、息もできない。


「恵介さんのこと、信じてあげて下さい。」


何それ、意味わからない。


ひとしきり抱きしめらられた後、不意に離され両肩に手を乗せられ、


また同じことを彼は呟いた。



ちょっと、何を信じるっていうの?ていうか、今何をしたのか、わかってる?


それ以上彼は何も言わず、そのまま先に歩いて行ってしまった。



足が宙に浮いているような感覚の中、ふらふらと歩く。






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