サクラと密月
 

気が付くとお昼を回っていた。



キッチンに降りて行き、ダイニングテーブルに座り、何を食べようか考えてみる。


するとスマホが、メールを受信したと震えた。


手に取りスマホを開ける。



圭介からだった。



心臓が飛び出しそうだった。



覚悟を決めて、読みだした。



すると、そこには懐かしあの蒲郡の海の写真があった。



あの日と同じ、太陽にキラキラ輝く海。


そして真っ青な空。


その向こうに小さく見える船。



その愛情のこもったメッセージに、自然に涙が溢れた。


「俺はいつでも蘭の味方です。」


そうだ、ずっと圭介は私の隣にいた。


どんなに離れていても、あなたは私の心の中にいたのだ。


もう、一秒でも離れていたくなかった。



今日は平日だ。



ひょっとしたら、仕事かも。


でも、構わない。


声が聞きたい。すごく。


私はためらいもせず、アドレスから圭介の電話番号を探しボタンを押す。


何度目かのコールで、繋がった。



私は昔の様に彼に話かけた。


彼の声が返ってきた。


私は嬉しくて、心臓が飛び出しそうだった。


「どうしたの、こんな時間に。」


そう彼が尋ねた。


その向こうに波の音が聞こえた。


規則正しく打ち寄せる波の音。


「圭介、今どこにいるの。」


 尋ねずにはいられなかった。


 彼は少し沈黙したが、正直に話てくれた。


「蒲郡の海、昔一緒に来ただろ。」



 私は声を上げた。


「私も今から行く、待ってて。」


 それだけ言うと、スマホを置いた。


 服を着替え、家を飛び出す。


 歩きながら、電車を探した。


 そして電車に飛び乗った。


あの日、二人で乗った電車。


今日は一人で乗る。


でも寂しくない。



懐かしい街並みも、可愛いバスも、可愛いあの日の私たちも、全てが愛おしかった。



 もう二度と離れない。




< 121 / 147 >

この作品をシェア

pagetop