サクラと密月
美しい日々



あの頃は最悪だった。



大学を出て就職したのは良かったが、配属されたのは総務。


文学部をでたのは良いけど、結局お茶汲みや電話の取次ぎばかり。



おまけに一緒に配属された同僚は、遊ぶことしか能のない短大卒の女の子。



話なんて全く噛み合わない。


いつも上手いこと言われて、彼女の始末ばかりさせられていること。



それなのに、要領のいい彼女ばかりがちやほやされる始末。



今も目の前で、ぶりっ子してる彼女の気を何とか引こうとしている、あんただよ。



あんたの様な、男のくせに女性にしか興味のない男。



そして、そういう事に全神経を集中させる女。



合うわけがない。



何より一番最悪なのは、親友を奪われたことだ。



こんな噛み合わない毎日の愚痴を、彼女に聞いてもらえるだけで明日に向かえたのに。



その彼女は、なんか良くわからない男とあっという間に結婚して、東京で暮らし始めた。



そこが更に気に食わない所。



だって、彼女なんか間違えてる。


そんな気がした。



勿論私は、彼女にそう言った。


結婚すると私に打ち明けた時だ。




本当は止められないって解ってた。




だけど、止められずにはいられなかった。


もっと上手に彼女に話すことできたかもしれない。



それが今、一番の後悔。



勿論、お互い半分喧嘩の様になってしまった。



あの夜。



二人のお気に入りのパスタのお店でのこと。



あの夜のことは、今でも心を疼かせた。



「お祝いしてくれると思っていた。」


そう言った彼女。



彼女の目には、薄っすら涙が浮かんでいた。



でもごめん、蘭。



私、今でもあなたを心の底から心配しているよ。


結婚式も二次会も勿論出席させてもらった。



二人の友情は、結婚なんかじゃ決して消えないと思うから。



それ以来、彼女とは会っていない。


新入社員は、仕事を覚えるので精一杯というのもある。



でもそれ以上に、蘭のご主人なんか付き合いづらいんだよね。




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