サクラと密月




そんな訳で、その日も一人で晩御飯を食べに出掛けた。




入社して三か月、会社と家を往復するだけの毎日。




以前から会社の近くにあって、すごく気になっていた店。




いつも夜遅くまで灯りがついている。



客を見ると大体どんな店か分かるのだが、ここだけは謎だった。




素敵な老夫婦入っていったり、若い二人連れが出てきたり。


皆楽しそうに出てくるのだ。



いつもの相棒がいなくて、大好きな食べ歩きを諦めていた日々。



そう、 蘭だけが友達じゃあない。



でも誰か別の人を誘うのを、躊躇っていたもう一つの理由。



それは、圭介ともう一人の蘭の友達だった。



私は知っている。



蘭を結婚させた女性。



蘭の中学時代の同級生だ。


蘭を東京に連れて行って、あの男を連れてきた。



結婚式の二次会の時、見ちゃったんだよね。



帰りの店の前、圭介にびったりくっつく彼女。



以前から、あの子気に入らなかったたんだよね。


しかも、圭介も圭介だ。


蘭がとっとと結婚したからって、二次会であんなにべたべたするってどうなのかな。



あんなんだから、蘭をどっかの男に取られちゃうんだよ。



まあ、結局その子とは何ともなかったみたいだからいいけど。



そんな訳で、私は少し人間不信になっていた。



誰か友達と一緒に食事にでも行こうものなら、言ってはいけないことをベラベラ話して


しまいそうだったから。



給料も出たし、もしちょっとお高い料金でも、支払ができる様になったら行こうと


ずっと我慢していた。


いつもは少し残って残業をする所を、お先に失礼しますと言って会社を出た。


例の同僚のびっくりする顔が、忘れられない。


知ってるんだ。


あいつが私を皆になんて言ってるか。


友達のいない都合の良い女。


大丈夫、あんたが興味のある男なんて、私は全く興味がないから。


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