サクラと密月
少しドキドキしながら、店の前まで行った。
夕方で、街が赤く染まっていた。
広い駐車場のアスファルトも赤く染まっている。
東の入口の扉を開ける。
片側開きの重い扉。
開けて少しびっくりした。
中にはもう一つ扉があった。
扉を開けると、そこから音楽がこぼれ落ちてきた。
なるほど、そういう意味での二重扉なんだ。
流れてくるのは多分ジャズ。
トランペットとドラムの軽いやつだ。
私は嬉しさのあまり顔が緩むのを感じた。
生演奏大好き。
蘭と一緒に、仲良くあっちこっちへ聴きにいった。
無料のオーケストラから、街角の流しのトランペット。
栄公園のライブに学祭。
食事をしながらピアノの生演奏を聴くなんて最高。
二人でそんな所を狙って食べに行った。
そんなことすっかり忘れていた
中の扉をゆっくり開けて入った。
扉の前にレジと案内のカウンターがあった。
そこでウェイターの人を待った。
しばらくすると、腰に長いギャルソンエプロンをした白いシャツの男性がやって来た。
耳に赤い石のピアスをしている。
「一人なんですけど。」と、私。
いらっしゃいませ、こちらへどうぞと席へ案内された。
外から見るより、中は広くて小さな舞台があった。
その横にはグランドピアノと大きなスピーカー。
あっちこっちに小さなスピーカーがあって、そこから音楽が流れていた。
これが、この音楽を肌で感じさせてくれる原因なのだと思う。
まだ時間が早いせいか、テーブルの席に通された。
お水が運ばれてきて、メニューを渡された。
パスタがメインだが、軽いおつまみのようなものも食べれるらしい。
後ろの方には、カクテルの名前も書いてあった。
私はトマトのパスタとワインを頼んだ。
帰りは電車で帰ろうと思った。