サクラと密月



そんなある休日の夕方のことだった。



私は歩いて近くのモールに買い物に出かけた。


その日はとても天気がよくて、夕焼けも綺麗だった。


私はモールまで、川沿いの道を通ることにした。



土手からだと夕日が良くみれるのだ。



いつもの通り、少し遠回りをして土手を登る。


周りより土手が少し高い所にあった。


川は土手の下にある。



川沿いにももう一つ道があった。


夕日を見ていた目を川に向けた。



そこにサックスを吹いているあの彼がいたのだ。



風が強く、土手の上にも車が通れる道があったのですぐ横を車が通る。



そのためサックスの音は聴こえなかった。



私は彼の演奏が聴きたくて、近寄った。


彼は演奏に夢中で、隣を犬の散歩の人が通っても気にしなかった。


私は音の聴こえる、でも彼の邪魔にならない所に腰を下ろして演奏を聴いた。



空気がオレンジ色に染まる中、彼は夢中で演奏している。


瞳は時々、赤く大きく膨らんだ太陽を見つめていた。



何より気持ちよさそうだ。



時折空を見上げては、鳥達が飛んでいくのを見つめる。


私も一緒にその目の先を見つめる。



どれくらい演奏していただろう。



日もとっぷりと暮れ、道路に並んだ街灯に灯りがついた頃ようやく演奏は終わった。


行き交う人もほとんどいなくなった。


私は思わず拍手をした。


すると彼が話かけてきた。


「さっきからずっとそこに居たでしょ、ストーカーさん。」



そう言ってこちらに近づいてくる。


「気づいてたんだ、やー遠回りして良かった。いいもの聴けた。ご馳走様。」


その答えが気に入ってくれたらしい。


私の隣に横並びで座ってくれた。




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