サクラと密月



そんな娘の中には熱心な娘もいた。


必ず時間を聞きつけ、同じ席に座る。


そして、彼に差し入れをして、彼の演奏だけ聴いて帰っていく。



お嬢様なのかもしれない。



私は、演奏が好き。


だから何でも聴ければ嬉しかった。



時間があれば何曲でも聴いていたかった。



生の演奏が大好きだ。


だから必ず長居してしまった。


でも、そんな私にお店の人は優しかった。


何時しかお店が大切な居場所になった。






そうしているうちに、季節が移り代わり、会社に新入社員がやって来た。



それと一緒に、上司や先輩が配置がえで移動したりやってきたりした。


総務は新人は入らず、グループの係長がやってきた。


30代後半の係長になって配属された人だ。


以前、工場で総務の仕事をしていたらしい。


代わりに結婚する先輩が工場に移動になった。


例の同僚はあいかわらずで、仕事よりもいつも何処かで時間を潰していた。


私は一年経ったせいか、仕事もスムーズに動くようになった。


会社に顔見知りも増え、助けてくれる別の部の知り合いもできて仕事が楽しくなった。




そんな訳で一年だけしか先輩ではないが、係長の世話係になった。



係長の配属が決まった時は、例の同僚は世話係を任命された私にご愁傷さまと


言っていた。



なのに、配属された彼を見て態度が一変した。



背の高くほっそりとした姿、そして穏やかな仕草。


細やかな気配りができる人だった。



要するに、彼女の好みだったのだ。



配属された朝、挨拶を彼とした時の彼女の顔といったら。


係長は明るく気軽にどんな人とも話す人だったので、仕事もスムーズになった。


また、係長がきたことで新しい仕事ができやすくなった。


自然と私の所にも、仕事がやって来た。


社内文書の清書など、やりたかった仕事に一歩近づいた。


それがまた嬉しかった。


ただ慣れるまで仕事をする時間が増えた。


要するに残業である。


暗くまで残業する日々が続いた。


でも、やりたかった仕事だったので残業していてもとても楽しかった。






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