サクラと密月
「 いつもお店に聴きに来てくれる人でしょ、今日は会社休みなのかな。」
そう尋ねてきた。
「そう、あそこのモールに買い物に行こうと思って、この道好きだから遠回りして来た。
あなたは。」
「俺ハル、皆ハルって呼んでるからハルでいいよ。」
「私愛果、よろしく。」そう笑顔で挨拶をした。
「たまにここで練習するんだ。いつもは部屋や店で練習してるんだけど、こうして店の
休みの時なんか外で思いっきり吹きたくなるんだよね。」
そう言って笑った。
またその笑顔がチャーミングだ。
「ところで愛果さん、そろそろ暗くなってきたけど買い物大丈夫なの。」
そう言われて、すっかり忘れていたことに気が付いた。
「しまった忘れてた。愛果でいいよ、皆そう呼んでるから。」と唸る私。
それを聞いて彼は笑いながらこう尋ねた。
「何を買うつもりだったの。愛果」
今日はCDを買うつもりだった。
彼の演奏を聴いてジャズが好きになったから。
「CDを買いに行こうと思って、あなたの演奏聴いていたら欲しくなって。」
「あそこのモールの店、あんまりジャズ置いてないよ。俺お腹空いた、良かったら一緒に
なんか食べない。その後いい店紹介するよ。」
あまりの展開の早さに少し驚いたが、楽しそうなのでついていくことにした。
ハルの住んでいるアパートは、川を挟んで私の住んでるアパートの反対側にあった。
ハルが車で連れてってくれるというので、彼のアパートまで一緒に歩いた。
川のこちら側はあまり来たことのない場所だったので、新鮮だった。
アパートは小さな公園の横に有った。
アパートの前に小さな駐車場がある。
「ここで待ってて。」
そう言って彼は、私をアパートの駐車場の入口において、アパートに入っていった。
暫くするとサックスの入った鞄を置いて、代わりに出掛ける時用の鞄を持って彼が現れた。
「こっちだよ、小さいけどどうぞ」
そう言ってライトブルーの軽自動車に乗せてくれた。