サクラと密月



「 いつもお店に聴きに来てくれる人でしょ、今日は会社休みなのかな。」



 そう尋ねてきた。


「そう、あそこのモールに買い物に行こうと思って、この道好きだから遠回りして来た。



あなたは。」



「俺ハル、皆ハルって呼んでるからハルでいいよ。」



「私愛果、よろしく。」そう笑顔で挨拶をした。


「たまにここで練習するんだ。いつもは部屋や店で練習してるんだけど、こうして店の


休みの時なんか外で思いっきり吹きたくなるんだよね。」



そう言って笑った。



またその笑顔がチャーミングだ。


「ところで愛果さん、そろそろ暗くなってきたけど買い物大丈夫なの。」


そう言われて、すっかり忘れていたことに気が付いた。


「しまった忘れてた。愛果でいいよ、皆そう呼んでるから。」と唸る私。


それを聞いて彼は笑いながらこう尋ねた。


「何を買うつもりだったの。愛果」


今日はCDを買うつもりだった。



彼の演奏を聴いてジャズが好きになったから。



「CDを買いに行こうと思って、あなたの演奏聴いていたら欲しくなって。」


「あそこのモールの店、あんまりジャズ置いてないよ。俺お腹空いた、良かったら一緒に


なんか食べない。その後いい店紹介するよ。」


あまりの展開の早さに少し驚いたが、楽しそうなのでついていくことにした。




ハルの住んでいるアパートは、川を挟んで私の住んでるアパートの反対側にあった。



ハルが車で連れてってくれるというので、彼のアパートまで一緒に歩いた。


川のこちら側はあまり来たことのない場所だったので、新鮮だった。




アパートは小さな公園の横に有った。


アパートの前に小さな駐車場がある。


「ここで待ってて。」


そう言って彼は、私をアパートの駐車場の入口において、アパートに入っていった。


暫くするとサックスの入った鞄を置いて、代わりに出掛ける時用の鞄を持って彼が現れた。


「こっちだよ、小さいけどどうぞ」


そう言ってライトブルーの軽自動車に乗せてくれた。





< 129 / 147 >

この作品をシェア

pagetop