サクラと密月




でも、彼のそういう所、絶対邪魔したくはなかった。


私なりのやり方で彼を応援していたい。




この感情が何なのか。


恋なのか。


愛なのか。




でもハルは近すぎて。


自分でもよくわからなかった。


だって一緒にいるのがあんまりにも当たり前すぎて。




この今のハルを、私は失いたくなかった。



絶対に。



仕事の合間に店に行き、店で彼と一緒におしゃべりをする。


時々一緒にパスタを食べ、一緒にCDを聴いたり感想を話あったり。




そんな時間がなにより楽しくて。



一緒に行った大須の楽器店。


いつもより大須の街が違って見えた。



一緒に土手に座って見る夕日。


ハルに家まで送ってもらう夜道。


天井に輝く月を二人で何時までも眺めてた。


そんな時、ハルはそっと手を繋いでくれる。


私はそんな時ドキドキする。


繋がれた手を感じながら、ハルをそっと盗み見る。


彼の顔に月の光が当たって綺麗だ。


「綺麗だね。」そう言って笑った。



 もう、それだけで良かった。


そんな毎日こそ大切な私の毎日になっていた。



今まで一人でしてきたこと、二人で繋がって紡いでいく。


二人の毎日が重なって、一つになっていく。


一人の時間が減って二人の時間が増えていく。




その瞬間が幸せだったのだ。




そんなある日、店に行くとハルがいなかった。



こんなことは初めてだった。



店の演奏もいつもと違って寂しかった。



私はそばに来たウエイターに尋ねた。


「彼、風邪ひいたみたいです。店が開く前、連絡がありました。彼も人間だったんですね。」


と笑って別のテーブルへと移っていった。



その夜、勇気を出して彼のアパートへ行ってみた。


いつもは彼と歩いた道を一人で歩く。


そしてアパートの前で彼に電話をした。









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