サクラと密月



「それよりさ、あのパスタまた食べたい。今度いつ行く。」


さらっと誘うハル。


憎めない。


「いつ行こう、まだわかんないから連絡先教えて。」


そして連絡先を交換した。





そして毎日、二人のやりとりが始まった。


つぶやきのような二人のやり取り。


朝起きた時、仕事の帰り、寝る前。


一つ一つ彼を知るたび思う。


彼の人柄、優しさ、温かさ。



そして彼自身。




年下なんて思えなかった。



信念を持って進む強さ。


それに対してだけは、尊敬さえ抱いた。




同じ会社の同僚、先輩達。


彼等は恐らく、ハルよりも学歴も高く環境も恵まれている。



だけど時々、酷く退屈そうだ。



レールの上を歩く彼等。


レールを飛び出して、毎日戦うハル。


けどハルはその自由を手に入れる為、誰よりも努力を惜しまない。


お店のバイトと他にも二つバイトを掛持ちしていた。


その間を縫って、例の先生の所でのレッスンに練習。



ホントいつ寝てんの、と言うくらい何時もメッセージは、どこどこで何してました。


ばかりだった。



反対された手前両親にも頼ることなく ただひたすらに夢に向かって、突き進む



そのひたむきさ。




それが彼を大人にしていた。



そう感じた。



自分に自信のない私は、とても真似出来ない。



 一度訪ねたことがある。


なぜ、そんなに音楽が好きなの、と。


彼は一言、


「好きだから。」



負けた。



そう思った。


そう言うのって理屈じゃないんだよね。


理屈じゃないものに彼は出逢ってしまったのかな。



そんなシンプルな彼が私は大好きだ。


ただ毎日自分の好きなことに打ち込む彼。



自分なんかよりずっと強い彼。



私はそれを知ってしまったのだ。



私はいつしか彼を、心から応援していた。


彼と一緒に、彼の夢の先が見てみたい。


心の底からそう願った。




そう思えた自分。


もう独りではなかった。




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