サクラと密月
「愛果がこっち見ないからだよ、それに本当は喜んで欲しかった。」
私はハルに向かって座り直した。
私は素直に謝ろうとした。
そこへ近くで遊んでいた小さな男の子のボールが、転がってきた。
ハルはボールを取って、男の子へと投げ返した。
「ごめんなさい。」
そう言って私は頭を下げた。
頭の上を飛行機が飛んで行った。
「良し、許す。」
そう言ってハルは笑う。
その笑顔にいつも救われる。
ハルはそのまま、空を見上げた。
「俺さ、ニューヨーク行きたいんだよね。」
ああ、見上げていたのは飛行機だったんだ。
そうだよね、憧れるよね。
「東京、愛果も来なよ。」
そう言って私を見るハル。
「そうだね、いつ行くの。」
「調べてくるよ、また教える。」
またにっこり笑った。
「なんか喉渇いた、なんか飲みにいこう。」
そう言ってハルは立ち上がった。
本当は素直になれない理由もう一つあった。
ハルにも言えないこと。
係長のことだ。
結局、例の同僚は近くにある別の支店に移動になることになった。
勿論私にお咎めもなく、残業も以前と同じようにしていた。
だけど、本当は心苦しい。
係長のあの言葉を聞いてしまたからだ。
そしてもう一つ気持ちに重くのしかかることがある。
係長と私の関係が、男女の関係ではないかという嫌な噂が流れていた。
それは表に出て表れてこない分、人から人へと伝わり、居心地の悪い雰囲気を作り
出していた。
係長は残業で二人きりになった時、その事を聞いてくれたことがあった。
「なんか噂になっているみいたいだけど、大丈夫。」
私は少し参っていたが、本当のこと言えなかった。
言ったら多分自分がダメになる。
「気にしてたら仕事できませんよ、やらなきゃいけないんですから。」
そう言って仕事に集中する。
そう、仕事してる方が楽なのだ。