サクラと密月



夕方から練習があるというハルと別れて、独りで自分の部屋に戻る。



部屋の灯りをつけてソファに座わり、最近お気に入りの女性シンガーの


音楽を聴く。


休みが終わってしまうという気持ちと、 ホントはハルともっとずっと一緒に居たかったと


いう気持ちが溢れ出る。



それが今日も言い出せなかった言葉。






ねえハル、知ってるかな。



本当はもうずっと前から、あなたのいない時間、私がどんな気持ちでいるかを。


もうずっと前から、あなたのいないこと。 この一人の時間が辛くて苦しくて。



私の瞳に涙の膜を張らせていることを。


あなたと出逢ってから私、楽しくて幸せで、あなたといると独りじゃないと


思えた。


だからこそ、あなたのいないこの時間、あなたのいないことが辛い。



あなたのくれた言葉は、花びらのようにひらひらと私に降り注ぎ、


私を幸せにしてくれた。



あなたのくれた優しさは、そっと私を包み込み、私を捉えて決して離さない。


こんなにあなたに夢中な自分がいることに自分でも驚いている。


本当にばかみたいだ。



私らしくない。



勉強して寝ちゃおう。


バスタブにお湯を入れる。


お風呂の栓を心配する湯沸かし器の、確認の機械の声にでさえ癒される私。


相当重症だ。


温かいお湯につかり、膝を抱きしめる。


その温かさの中で、ハルが恋しくてひとしきり泣く。


もう大丈夫、ハルのこと思い出しながら寝てしまおう。


すると、ハルからメッセージが届く。




今練習終わりました。


寂しくて泣いていないかな。


今日は月が綺麗です。


愛果と一緒に見たかった。





私は窓を開けて空を見る。


空の天井に白く光る月があった。



本当だ、きれい。



見とれていると、月の横を星がすっと流れていった。


思わず口を塞ぐ。



見ちゃった、流れ星。


ハルに一番に聞いて欲しい。




教えてくれてありがとう。


お疲れさま。


流れ星見たよ。


いいでしょう、ハルにも見せたかった。


お休みなさい。



そこまで書いて送信ボタンを押した。




< 144 / 147 >

この作品をシェア

pagetop