私、立候補します!
「なっ、カルバン様……!」
部屋にいたのは部屋の主であるニールと息子のアレクセイ。
しかし、それは到底仲のいい親子の様子ではなく、二人のまわりには数人の兵士が伏し部屋の中は荒れていた。
ニールは今にも倒れそうなほどに体をふらふらと揺らめかせ、アレクセイの手には彼の体格に不釣り合いな大きな剣が握られている。
部屋の明かりは二人の姿を照らし、剣からはぽたりぽたりと滴が落ちる。
エレナがニールに駆け寄ると彼はふらつきながらも彼女を背中に隠し、アレクセイが見えないように視界を遮った。
ニールの服が肩から腕にかけて破れ、血が滲んでいることにエレナは息をのむ。
ニールはアレクセイを見つめたまま小声でエレナに話しかけた。
「エレナさんはラディアント様のもとにお逃げ下さい。アレクセイはなんとしてもここで止めてみせます」
突然のことにエレナの理解はついていかずその場を動けない。
ニールが早くと急かす間に向き合っているアレクセイが一歩近づいてきた。
「後ろの人は……ああ、エレナお姉ちゃんだったかな」
アレクセイの言葉に違和感を覚えたエレナは思わずニールの後ろからアレクセイを見てしまう。
アレクセイは姿こそ彼のままだが、いつもは金色の目が今は不気味に青く光っていた。
アレクセイはエレナと目が合うとにやりと目を細めて口の片端をつり上げ、おもむろに剣を握っていた手を動かした。
「――え……」
ゆっくり動かした、はずだった。
しかし剣は急に速度を持って横に振られ、ニールの体が一瞬で壁に叩きつけられる。
エレナの前には大きな剣を軽々と持つアレクセイの姿しかない。
「カルバン様……!」
「あはははは! この状況を見ても人の心配するの?」
狂ったように笑ったアレクセイは顔を歪めてエレナを睨む。
「そういうの本当気に入らない。――お姉ちゃんから遊んであげるよ……!」
アレクセイは目に憎しみの炎を含ませて剣を握りなおす。
じりじりとエレナと距離を縮め、掲げた刃をエレナ目掛けて振り下ろした。
(エレナさん……!)
ニールは壁際で横たわりながら己の無力さを悔やみ、エレナを守れなかったことに己を恨んで唇を噛み締める。
その一方、エレナに重傷を負わせたと嬉々とした笑みさえ浮かべていたアレクセイは手応えがないことに大声をあげた。