私、立候補します!
「何で! 何で斬れてない!」
アレクセイの言葉にニールが伏せていた目を辺りに向けて動かすと、今し方切られたと思っていた小柄な姿は先ほどよりも少しだけ横にずれた位置に屈んでいた。
「ご無事ですか……!」
「カルバン様、何とか大丈夫、です……」
剣を振り下ろされた際、エレナはとっさにロッドをあてて間一髪で避けることが出来た。
しかしロッドは真っ二つどころか衝撃でばらばらになってしまい、ピンチであることは変わらない。
そのことに立ち上がりながらエレナはどうしたらいいのかと必死に考える中、横にある剣の違和感に気づいた。
刃物にしてはあり得ない透明感を持ち、エレナは切られていないのに剣の先からぽたぽたと滴が落ちている。
目をこらしたエレナは刃の正体に気づいた。
「氷……?」
(どうしてアレクセイ君がこんな武器を……)
エレナがじっと氷の剣先を見つめるとアレクセイの剣は一瞬で水になって形をなくしていく。
驚きアレクセイに見開いた目を向ければ、彼は手のひらに氷の塊を持って楽しそうに笑みを浮かべていた。
「殺されそうなのに剣を見て刃の正体に気づくなんて意外と根性あるんだね」
(アレクセイ君が大きい剣を素早く動かすにはまだ体が成長していない。それにあんな速さ、大人の男性が剣を扱う中でも見たことがない……!)
「あなたは誰……?」
エレナがぽつりと問いをこぼすと、氷をその場に捨てたアレクセイは一瞬で距離をつめ、エレナの視線より低い位置から手を伸ばしてエレナの頬に触れた。
温かいはずの手のひらは氷のように冷たく、肌の温度を奪っていくようでエレナは肩を震わせる。
「変なエレナお姉ちゃん。ボクはアレクセイだよ?」
「――違う」
(確かに姿はアレクセイ君だけどアレクセイ君じゃない!)
数日間一緒に過ごしたアレクセイの姿が次々と浮かんでは消えていく。
明るく人懐っこい性格。魔術や剣の訓練が好きで座学は苦手。
そして何より彼は父親であるニールが好きで誇りに思っている。その父を傷つける行為が、エレナにとってアレクセイと目の前の少年を分ける最低限で確実な判断基準となった。
「アレクセイ君は父であるカルバン様を傷つけたりしない。それに、アレクセイ君の目の色は太陽みたいな金色だもの!」