君は僕を好きになる。


――あれから一年。

私は相模のせいで、仕事中もプライベートでも、常に手元に置いておくほど大好きだったコーヒーが飲めなくなった。

その他は特に変わらず、直哉との関係も続いている。


詰め寄ろうかとも思ったけれど、それよりも、少しずつ結婚を意識し出した彼を信じたいと思うから。

このまま何事もなかったように結婚をして、お互いに、いつかあの夜の事が“ただの思い出”になればいいと思っていた。



「戻るね。これ、ありがとう」

コーヒーを啜る相模に、肩にかけられたマフラーを手渡し、お酒の匂いが充満した部屋に戻る。

見回すと、もうそこに直哉の姿はなくて、モヤモヤとした気持ちのまま会を終え、二次会を断ってビルを出ると、そこに相模が立っていた。


「二次会行かねーの?」

「今日は帰る」


やっぱり、ダメだな……。

逃げるように「また来週ね」と告げ、数歩進んだところで、後ろから聞こえた相模の声に足を止めた。


「深山、俺と付き合わねえ?」

「……は?」


一体、何を。


「一か月でいいよ」

「何――」

「無理だったら、その時点で別れていいし」

「ちょっと、やめてよ」


そうじゃなくて、みんな見てるのに。


「そんなにあいつが好き?」

「……うん」


次の会場に向かう同僚達の好奇の視線に耐え切れず声を上げると、相模は、まるでわざと見せつけるかのように微笑んで言ったんだ。


「ふーん。でも深山はきっと、俺のことを好きになるよ」



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