ベルリンの壁ドォォン‼︎
「何であんたがここにいるの?」

「俺のパソコン調子悪くて。レポートのための調べ物させてよ」

「だったらさっさと作業終わらせて帰って下さーい」

そう言って、私はパソコンをいじる西田を見下ろした。

「……ゼミ中元彼と何話してたの?」

西田はパソコンの画面を見たまま、そうつぶやく。

「は? 見てたの? あんたには関係ないじゃん」

「関係あるよ、お隣さんですから。知ってた? 俺あれから一切、女を部屋に連れ込んでないの」

「あれって?」

「お前に夜中、壁ぶっ叩かれてから」

「あんたも逆ギレしてたじゃん。メタルばっか流すなって」

「まあね、あの時はね。でも、あの時お前目めちゃくちゃ腫れてて、拳も擦り切れてて」

カチ、カチ、と西田はマウスをいじったまま。パソコンの画面が次々と変化していく。

「段々ね、じわじわきたの。ま、お前にとっては、ベルリンの壁並みに越えられない壁が俺との間にあるんだろうけど」

プリンターが唸り声をあげ、2、3枚、文字だらけの紙が印刷された。

それから西田は勝手に私のアイチューンを開き、カチカチとある曲をクリックしていた。

「…………」

「じゃ、俺帰るわ」

彼が立ち上がるとともにスピーカーから聞こえてきたのは、切なげなピアノの音。

こ、この曲は……。

バタンと私の部屋の扉が閉じられ、それから、隣の部屋の扉が開き閉じられる音が壁越しに聞こえた。

その瞬間、高速のドラム音と、歪んだギター音が私の部屋を揺らした。

ヤツの選曲は『サイレントジェラシー』だった。
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