遊川さんは今日も最強


「ね、網目はどうして出版社に入ったの?」

「俺ですか? 俺は昔から本が好きだったんですよね。文字に触れてないと落ち着かないっていう」

「活字中毒ってやつね」

「そんな感じです。で、文字に触れる仕事がしたいなぁと思って。片っ端から出版社を受けたんです」

「それなのに手芸誌に配属されたんだ。あはは、かわいそー」


あまり本気で同情されている感じはしない。

確かに、配属されて直ぐは嘆いたさ。
これだったら前の所属だった『山岳倶楽部』のほうがマシだとさえ思った。

……でも、今は良かったと思っている。
ここで、遊川さんに会えたから。


「遊川さんは、昔から『ハートフルソーイング』なんですか?」

「最初は違うわ。最初に運悪く『EAST WEST』に入っちゃったのよ」


『EAST WEST』といえば我が社の看板雑誌だ。
二十代の女性をターゲットとしたファッション誌で、俺の同期の女の子たちも、いつかは『EAST WEST』編集部に入りたいと息巻いている。


「運良くじゃなくて?」

「うーん。だって私ファッションとかあんまり頓着しないしねぇ」


そうだろうか。
確かにピアスやネックレスと言った装飾品をつけているのは見ないけれど、服はいつもこざっぱりとしていて清潔感があるし、どんな色合いの服でも着こなしているように見えるのに。

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