遊川さんは今日も最強
「……ちょっと無理したわよね。なにせ周りからは羨まれるし。でもねぇ、あそこ人多い分、分業化しててね。最初に行っちゃうと雑誌づくりの全貌が分からなくてしんどいのよ。二年頑張ったけど無理って思って移動願いだして。それからずっとここよ」
「へぇ……」
「手芸なんてここにくるまでは興味無かったけど。やってみたら楽しいし、ハマるの分かる気がするわ。自分で何かを作るってのが楽しいよね」
遊川さんは夢見るような眼差しでカウンターの中を見る。
その視線の先にあるのが、日本酒の瓶ってところが何だが。
「最初は、私もキットを作らされたのよ。指先が穴だらけになるんじゃないかと思ったわ。でもね、手芸する時の失敗ってやっぱ作ってみないとわからないのよ。だから網目も不満はあるだろうけど頑張ってほしいと思っているわけ」
「はい。頑張ります」
いい話だとは思うけど、これって完全に部下を慰める上司の図だ。
いかん。せっかく変わりかけていた雰囲気を、ここに来て社内モードに戻してどうする。
もっと俺は男ですアピールをしないと。
「ほら、もっと飲みなさい」
「あ、すいません」
あああああ、気配りも彼女のほうが上!
考えれば考える程、好かれているかも知れないなんて自惚れのような気がしてくる。