でも、好きなんです。
週明け、出勤早々、窪田さんと玄関で顔を合わせる。

「おはよ、河本さん。」

 いつもとなんら変わらない笑顔。恥ずかしくて、顔が合わせられない。うつむいて、そのまま通り過ぎてしまう。

「河本さん、今日、僕に冷たいじゃない。」

「そ、そんなんじゃありません。ただ・・・、どんな顔すればいいのか、わからないんです。」

「僕がした、ムリチューのせい?」

しばらく返事が出来ない。

「あ、あんなの、困ります。窪田さんは軽い気持ちだったんでしょうけど、私みたいな恋愛レベルの低い女に、あれは駄目です!」

「レベルの低い女って・・・まぁた自分でそういうことを言う~。」

窪田さんがくすくすと笑う。

「と、とにかく、もう、ああいうことはやめてください。」

「うーん・・・、それは、無理かも。」

 予想外の窪田さんの返答だった。

「無理かも・・・って!」

「だって僕、また、したくなるかもしれないもん。」

「な、なに言ってるんですか?!」

「だって、金曜日、なんだかすごく、河本さんが可愛くて、河本さんが、課長を好きなんだと思ったら、なんかムカついてきて、気がついたら、ムリチューしてた。・・・わかる?こういう気持ち。女の子にはわかんないかな。」

「そ、そんな、困ります!」

「え?駄目?」

 どう答えればよいかわからなくて黙ってしまう。

「・・・こういうふうに、からかわれるの、もう嫌なんです。私、窪田さんがそんな人だと思ってなかったから、正直、ショックでした。」

「そんな人、って?」

「私のこと、なんとも思ってない癖に、ただ面白がって、キスなんかする人・・・ってことです。」

「なんとも思ってない、なんて、どうしてそう思うの?」

またしても、返答に困る。
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