焼けぼっくいに火をつけて
文化祭も終わり、学校は通常の生活に戻った。いつの間にかケータイに登録されてた、先生の番号とメルアド。万が一誰かに見られてもバレないように、「Oasis」と登録した。奥村のOと、慎一のSが入ってる単語から選んだ。
1日1回は電話番号を表示して、たまにディスプレイを撫でてる。
ケータイを何度も何度も見てるわたしに紗絵ちゃんと、入学した時から仲良しの麻巳子が、気味悪そうな顔をする。
2人のジトーッとした視線なんて、全然気にならないくらい、あの頃のわたしは浮かれていた。
授業中に目が合うと、先生は左の眉だけを器用に上げ、周りに気づかれないように、小さくニヤリと笑う。秘密を共有してるみたいで嬉しかった。
けど、そんな浮かれ気分は、長く続かなかった。
中間テストが終わり、体育祭代わりの球技大会も終わり、制服が冬服に変わっても、わたしのケータイは、先生からの連絡を告げることはなかった。
あっという間に時間だけが過ぎた。
職員会議で、自分のクラスだけするのは如何なものかってことになって、全クラス対象の補習になってしまい、前みたいに和気藹々としたものじゃなくなった。
クリスマスくらいは誘ってくれるかなと思って「メリークリスマス」とメールを送ったけど、スルーされた。そのまま冬休みに入ったから、先生の顔を見ることもなくなった。
唯一、お正月に「一年の計は元旦にあり」ってメールが来ただけ。
3学期になっても状況は変わらなかった。バレンタインデーに渡したチョコレートも、他の子たちが渡した物と一緒に山の一部になった。
あの日のキスは、何だったんだろう。自分のことを好きだという生徒を、からかっただけなんだろうか。先生の姿を見るたびに、ため息しか出ない。
「今日で今年度の補習は終わりな。2年の担当になったら、4月からもやってもいいけど、できたら顔を合わさないようにな」
放課後の補習も終わった。2年になって補習があったとしても、成績が安定してきたわたしは、対象外になるだろう。
ため息を堪えながら先生を盗み見たら、バッチリ目が合った。先生は器用に左眉だけを上げて、ゆっくりと唇で弧を描いた。
慌てて目を逸らしたけど、久しぶりにドキドキが止まらない。顔を上げれないまま、補習の教室から離れたんだった。
春休み、3月ももうすぐ終わろうとしている日、ケータイがメールの着信を告げた。
『今度の土日、空いてるか?』
先生からだ。合唱部の練習は、4月になるまで休みだ。
『空いてます!』
すぐさま返信すると、今度は電話が鳴った。
「もしよかったら、○○城を見に行かないか?今、お城祭りをしてるんだ」
隣の県の○○城は、大きなお城ではないけど、城下町には今でも長い市場が残ってて、春と秋のお城祭りは賑やかで有名だ。
「行きます!行きたいです!」
日帰りできないこともないけど、ゆっくり見物となると、それは無理だろう。でと躊躇しなかった。
勢いよく答えたわたしに、先生は笑いながら、県境をひとつ越えた駅を、待ち合わせの場所に指定した。
先生との電話の後、紗絵ちゃんと麻巳子にアリバイ作りを頼んだ。
先生と出かけることに2人はかなり驚いてたけど、わたしがずっと片想いしてるのを知ってたから、快く引き受けてくれた。今までも3人でお泊り会をしてるから、たぶん大丈夫。
2学期からの落ち込んだ気持ちなんて、どこかに行ってしまった。
約束の土曜日。県境手前の駅で待ち合わせて、目的の○○城に向かう。お城を見学した後、出店や城下町のお店を覗く。ゆっくりと近くのパワースポットや、恋人の聖地とかも見て回ると、あっという間に夕方になった。
先生が連れてきてくれたのは、こじんまりとした可愛いレストラン。出て来たお料理は、高校生のわたしが食べたことのない物ばかりで、どれも美味しかった。
驚いたことに、ここはオーベルジュ?上の階が宿泊施設になっていて、先生はここを予約していた。
この夜、わたしは先生に初めてを捧げた。
「先生」
「んー?」
翌日、帰る前にもう1度街を散策してる時、少し前を歩く先生に声をかけた。
「わたしは、先生のカノジョで、いいんですよね?」
「・・・、お嬢様のお気に召すままに」
差し出された手に飛びついた。
しあわせ、ってこういうことをいうんだろうな。
ずっとずっと、先生と一緒にいたい。これから先、一緒にいられるんだと思ってた。
1日1回は電話番号を表示して、たまにディスプレイを撫でてる。
ケータイを何度も何度も見てるわたしに紗絵ちゃんと、入学した時から仲良しの麻巳子が、気味悪そうな顔をする。
2人のジトーッとした視線なんて、全然気にならないくらい、あの頃のわたしは浮かれていた。
授業中に目が合うと、先生は左の眉だけを器用に上げ、周りに気づかれないように、小さくニヤリと笑う。秘密を共有してるみたいで嬉しかった。
けど、そんな浮かれ気分は、長く続かなかった。
中間テストが終わり、体育祭代わりの球技大会も終わり、制服が冬服に変わっても、わたしのケータイは、先生からの連絡を告げることはなかった。
あっという間に時間だけが過ぎた。
職員会議で、自分のクラスだけするのは如何なものかってことになって、全クラス対象の補習になってしまい、前みたいに和気藹々としたものじゃなくなった。
クリスマスくらいは誘ってくれるかなと思って「メリークリスマス」とメールを送ったけど、スルーされた。そのまま冬休みに入ったから、先生の顔を見ることもなくなった。
唯一、お正月に「一年の計は元旦にあり」ってメールが来ただけ。
3学期になっても状況は変わらなかった。バレンタインデーに渡したチョコレートも、他の子たちが渡した物と一緒に山の一部になった。
あの日のキスは、何だったんだろう。自分のことを好きだという生徒を、からかっただけなんだろうか。先生の姿を見るたびに、ため息しか出ない。
「今日で今年度の補習は終わりな。2年の担当になったら、4月からもやってもいいけど、できたら顔を合わさないようにな」
放課後の補習も終わった。2年になって補習があったとしても、成績が安定してきたわたしは、対象外になるだろう。
ため息を堪えながら先生を盗み見たら、バッチリ目が合った。先生は器用に左眉だけを上げて、ゆっくりと唇で弧を描いた。
慌てて目を逸らしたけど、久しぶりにドキドキが止まらない。顔を上げれないまま、補習の教室から離れたんだった。
春休み、3月ももうすぐ終わろうとしている日、ケータイがメールの着信を告げた。
『今度の土日、空いてるか?』
先生からだ。合唱部の練習は、4月になるまで休みだ。
『空いてます!』
すぐさま返信すると、今度は電話が鳴った。
「もしよかったら、○○城を見に行かないか?今、お城祭りをしてるんだ」
隣の県の○○城は、大きなお城ではないけど、城下町には今でも長い市場が残ってて、春と秋のお城祭りは賑やかで有名だ。
「行きます!行きたいです!」
日帰りできないこともないけど、ゆっくり見物となると、それは無理だろう。でと躊躇しなかった。
勢いよく答えたわたしに、先生は笑いながら、県境をひとつ越えた駅を、待ち合わせの場所に指定した。
先生との電話の後、紗絵ちゃんと麻巳子にアリバイ作りを頼んだ。
先生と出かけることに2人はかなり驚いてたけど、わたしがずっと片想いしてるのを知ってたから、快く引き受けてくれた。今までも3人でお泊り会をしてるから、たぶん大丈夫。
2学期からの落ち込んだ気持ちなんて、どこかに行ってしまった。
約束の土曜日。県境手前の駅で待ち合わせて、目的の○○城に向かう。お城を見学した後、出店や城下町のお店を覗く。ゆっくりと近くのパワースポットや、恋人の聖地とかも見て回ると、あっという間に夕方になった。
先生が連れてきてくれたのは、こじんまりとした可愛いレストラン。出て来たお料理は、高校生のわたしが食べたことのない物ばかりで、どれも美味しかった。
驚いたことに、ここはオーベルジュ?上の階が宿泊施設になっていて、先生はここを予約していた。
この夜、わたしは先生に初めてを捧げた。
「先生」
「んー?」
翌日、帰る前にもう1度街を散策してる時、少し前を歩く先生に声をかけた。
「わたしは、先生のカノジョで、いいんですよね?」
「・・・、お嬢様のお気に召すままに」
差し出された手に飛びついた。
しあわせ、ってこういうことをいうんだろうな。
ずっとずっと、先生と一緒にいたい。これから先、一緒にいられるんだと思ってた。