焼けぼっくいに火をつけて
初めて北見くんと帰った日から、わたしたちはなんとなく一緒にいることが多くなった。持久力はついたけど、相変わらず走るのが遅いわたしが戻って来るのを、校門のところで待ってくれてたり。部活が終わる時間が合う時は、一緒に帰ったりもした。

北見くんとは、驚くほど趣味があった。ちょっとマニアックなマンガの話をしても、「あぁ、あれね」と知っていて盛り上がったり、同じ景色を見て、全く同じタイミングで同じ感想を言ったり。とにかく北見くんといることが楽しい。楽しそうにしているわたしを見て、麻巳子も安心しているみたいだった。

「1年の時から北山さんのことが好きなんだ。僕と付き合って欲しい」

北見くんに誘われて参加した、予備校の冬期講習最終日。帰宅途中、北見くんに告白された。その頃には、もうわたしの中から奥村先生の姿は遠くなっていたから、二つ返事でOKした。

当たり前だけど、奥村先生と北見くんは全く違う。奥村先生と内緒の恋をしてた頃は、先生の立場を考えて、ひたすら隠していた。麻巳子と紗絵ちゃんに打ち明けてたけど、そんなに詳しく話すことはなかった。でも北見くんだと同じ高校生同士。隠すことなんて必要ない。
先生と付き合ってた頃は、先生のことしか考えられなかったけど、北見くんとだと、何もかもが大切に思えた。
北見くんといることは勿論のこと、親友たちと遊ぶことも、部活も、勉強はあまり好きじゃないけど学校に行くことも。

北見くんと付き合うことにした、麻巳子と紗絵ちゃんに告げたら、怪訝な顔でまだ付き合ってなかったの?って言われた。わたしと北見くんは、とっくに付き合ってるって、クラス中に認定されてたらしい。

「一応応援はしてたけどね。ホントのこと言うと、愛理と先生は無理だと思ってたの。先生と生徒って、ね。北見くんと一緒にいる方か、愛理はイキイキしてるし。高校生は高校生同士がいいと思うわ」

麻巳子よりハッキリと物を言う紗絵ちゃんに言われた。後になって考えたら、わたし自身もそう思う。身分不相応だったんだ。

奥村先生は担任だから、顔を合わさない訳にはいかない。だけど、前より心はザワザワしない。

北見くんと、麻巳子、紗絵ちゃんたちと過ごす時間は、それまでの高校生活より充実していた。

こうして高校3年まで過ごし、学部は違うけど、わたしと北見くんと麻巳子は同じ大学へ、紗絵ちゃんは希望通り宝飾の専門学校に進学が決まった。

そして、卒業式の朝。

わたしは奥村先生に呼び出された。

けど先生と会うことはなかった。

卒業式とはいえ、気もそぞろなわたしに気づいた北見くんに、行くてを阻まれた。北見くんは何も言わなかったけど、勘のいい彼のことだから、わたしと奥村先生の関係を知っていたんだろう。

わたしは、奥村先生でなく北見くんを選んだ。北見くんの手を振り払ってまで先生に会う理由が見つからない。わたしはそのまま、北見くんと学校を後にした。

それから10年間、先生とは会ってない。

なのに先週、再会してしまったのだ。
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