好きじゃないならキスするな!…好きならもっとキスをして。
俊の動きがピタリと止まった。

「あ、あの……、責めてるとかじゃないよ? ただ、状況を知りたいだけで」

……そう、俊は高校を卒業後、大学に進学はしたけど。第一希望の専攻に入れなかったのもあってか、講義に興味が持てなくなったと言い出し、大学二年に進級するはずだった春に、大学を中退してしまった。その後はいろんなアルバイトを転々とするフリーター生活。そのアルバイトも、ひとつのところでなかなか長く働き続けることができないでいる。


――就職してほしい。せめて、就職活動してほしいと心から願う。俊との将来を考えているから。いつか俊と結婚したいから。


だけどいつも、『やりたい仕事が見づからない』とか、『やる気が出ない』と言って、就職活動をしようとはしない。

やりたい仕事ができてる人なんてそんなにいないよ……。やる気出してよ……。いつもそう思うけど、そんなことを言ってしまったら俊は確実に機嫌を損ねるから、言えない。


現に、今も。

「あのさ……」

フォークをお皿の上に置いて、俊は言う。

「せっかくふたりでいる時に、そういう話やめない?」

……ふたりでいるからこそ、こういう話してるんだけどな。ほかに誰かがいたら絶対できない話じゃん。……けど。


「そうだね、ごめんね」

俊に嫌われたくないから、私は今日も俊に合わせる。……大丈夫。もう少し待てば、きっと俊は就職してくれるよ。
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