キスよりも熱いもの
驚いて言葉が出なかった。その距離にじゃなくその行動に。
何を思って彼がそんな行動に出たのかはわからない。私の言葉にムキになるようなタイプじゃないし。
椎名がくっと口の端で笑った。
「……確かに向いてないかもな、こういうのは」
その瞬間、緊張が解けた。
椎名が肩の力を抜いて息を吐きながら壁から手を離す。近づきすぎていた距離が元に戻っていく。
咄嗟に身体が動いていた。
離れていく腕にしがみつき、スーツの襟を両手で掴む。彼が眼を見開いたのがわかった。
やっと表情が変わった。
私が見たかったのはそうやって椎名が予定外に感情を動かす様子だ。取り澄まして皮肉ばっかり言ってないで。私に焦ったり驚いたりしてみせてよ。
そのまま襟を引っ張り、私より高い位置にある椎名の顔を引き寄せる。有無を言わせずそのまま強引に口付けた。
「……!!」
驚いたせいかぐっと椎名の身体が緊張するのが分かった。その事に満足しながら、私はますます力を込める。
たっぷりと堪能した後で身体を離すと、椎名の顔が微かに赤くなっているのが分かった。
その端正な顔を羞恥に歪める事が出来るのは中々に楽しい。