悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
小さい頃に英会話を習ってたからって、得意になるとは言えない。

あたしはやる気じゃなかったんだからなおさら。


イライラしてくるけど、唇を噛んでぐっと堪える。

文句を言いたくなっても黙り込んでしまうのは、あたしの短所かもしれない。


「まあまあ、あなた。ひよりにだって調子が出ない時があるわよ」


夕飯の片付けを終えたお母さんが、ダイニングテーブルを拭きながら優しく笑う。

お父さんも「そうだな」と頷き、おかげで少しだけイライラは治まったけれど。


「まぁ大学もほぼ決まってるようなものだし、それを見据えて頑張るんだぞ」


そう言われて、また鉛を付けられたみたいに気持ちが重くなった。


……大学はほぼ決まってる、か。

やっぱりお父さんは、あたしが付属の大学に行くと信じて疑わないんだな。

別の進路を考えてるって言ったら、どう思うだろう。


「……ごちそうさま」


特別な言葉は返さず席を立つあたしに、お母さんが声を掛ける。


「ひより、りんご食べない? たくさんもらっちゃったのよ」

「……いいや。あたしもうこのまま寝るから、おやすみ」


何か言いたそうにするお母さんに薄く笑いかけて、足早にダイニングを出た。

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