悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
「……ひより」


悔し涙を堪えて震えるあたしの名前を、柳がふざけずに呼んだ。

久しぶりの再会で、こんな惨めな姿をさらしちゃうなんて、本当にカッコ悪い。

でも、あたしを助けてくれて、今だけでも茶化さないでいてくれる柳の存在が、すごくありがたい。


「よかった……あんな人のこと、好きだって勘違いしなくてよかった」


さっきの憤りが少しだけ治まり、力無い声がこぼれた。

俯くあたしを慰めるように、頭にぽんぽんと手が乗せられる。


──あぁ、柳は手も大きくなって、こんなに優しく触れてくれるようになったんだな……。

そんなふうに思うと、トゲドゲしくなった心が丸みを帯びていく。


「……ラブホの前なんかにいると変な気分になるから早く帰ろうぜ」


変な気分って。と、つっこむのは心の中だけにしておいて。

ミリタリージャケットの袖から差し出された、手袋をしていない冷たい手に、あたしも自然と自分の手を重ねる。


冷えきったお互いのそれは、温もりを分け合うには心もとないけれど。

壊れそうだったあたしの気持ちを繋ぎ止めてくれるには、十分なものだった。




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