悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
「わ……っ!?」


カウンター越しから伸ばされた手に腕を掴まれ、ぐいっと引き寄せられた。

そして、身を乗り出した柳が、あたしの耳に出来る限り顔を近付ける。


「……今夜、電話する。寝るなよ」


──なぜか甘く感じる囁き声に、ドキンと跳ねる心臓。

すぐに手を離した彼を見やると意味深な笑みを浮かべていて、なぜだかあたしの胸をざわめかせる。


「あれ、ひよちゃん?」

「お金間違ってた?」

「あ、ううん、大丈夫……!」


あたしがまだレジ前にいることに気付いて振り返った二人に、何事もなかったように笑い返して、そそくさと後を追う。

お店を出る瞬間に柳の方をちらりと見ると、彼は涼しげな顔でひらりと手を振っていた。

……何なの、アイツ。



「ケーキもコーヒーも美味しかったし、いいお店だったね」

「たまには庶民のお店に来てみるものね~」


笑って話しながら歩く二人の横で、あたしは一人不整脈を起こしていた。

やましいことをしてるわけでもないのに、妙にドキドキする。

それは、あたしと柳しか知らない、秘密の約束を交わしたから──?


なんだか熱く感じる掴まれた腕を逆の手で撫でながら、あたしはざわめく胸を必死に抑えるのだった。


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