近くて遠い温もり
「……なんだよ。連休、予定あったのか」
「まあね」
嶋っちが「荷物持ってやるよ」と言ってくれたのを、大丈夫だからと断った。これ以上彼に優しくされると、泣いてしまいそうな気がしたから。
ボタンを押すと、いつもはなかなか来ないエレベーターがあっという間に来た。もう他の階も誰も残っていないのだろう。
嶋っちは何故か、あれから一言も話さなくなった。エレベーターに乗り込めば何か話すかなと思っていたけど、彼は壁にもたれたまま、やっぱり口を開く気配はない。
狭い空間で、よく知っている人と無言でいるのはなんとなく気まずい。
「よいしょ、っと」
そろそろ一階に着く。私は床に置いていたバッグを持ち上げるのに、わざと掛け声をかけた。
――と。
バッグの重さで体のバランスが崩れ、床に倒れたくなくて咄嗟に身を翻すと、トン、と壁に手をついてしまった。
目の前には、嶋っちの胸元。私との身長差は二十センチ近くあるから、そこに顔がいってしまった。