近くて遠い温もり


嶋っちのことが好きだと気づいたのは、入社して三カ月ぐらい経った頃。一番最初に嶋っちの女性関係の噂を聞いた時だった。

自分では彼のことを、気の合う同期、ぐらいにしか見ていないと思っていた。

でも、違った。


嶋っちが女性と並んで歩いているところを想像して、針を飲まされたような痛みが走った。そのうち針は心臓にまで到達して、どくりどくり、と嫌な音を立てた。

自分の気持ちがわかっていなかったなんて、どれだけ鈍かったのか。

でも今考えれば、あのまま自分の気持ちに気づかなければよかったのに、と思う。
だって嶋っちは、私のことなんかいつだって眼中にない。


「さ、帰るか」

「連絡しなくていいの?」

「ん、問題ない」

問題ない程、相手を信じているのか。それとも、今日は約束してない相手なのか。どちらにしても、悲しいことに私にはこれ以上立ち入る権利はない。


私は足元に置いていた荷物を持ち上げる。今日はこれから弟の所へ行くから、着替えやら親から頼まれた食料やらバッグにめいっぱい詰め込んできた。やたらと重くて、ちょっとふらついてしまう。

「なに、その大荷物」

嶋っちは怪訝な顔で、私の膨らんだバッグを見つめている。

「ああ……これから泊まりに行くの。随分遅くなっちゃったから、怒ってるかもしれないなぁ」

敢えて弟の所に、と言わなかったのは、私のせめてもの意地。少しでも嶋っちが気にしてくれたらいいな、という期待も込めて。


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