近くて遠い温もり
「うそじゃねーって」
「だってだって、嶋っちはいつも女性の影が途切れたことなかったでしょ……っ」
「そんなの」
彼は私から目を逸らした。
「俺がお前の気を引く為に、わざと仲間内に流した話だって」
嶋っちは改めて私を真っ直ぐ見据えた。
「好きだ。未美のことが」
「うそ……」
「だからうそじゃねーって。どう言えば信じてもらえる?」
嶋っちの手が頬から髪に移り、一度優しく撫でると、彼は私の髪にキスをした。
「入社した時から、ずっと好きだった。容姿も性格も、未美って名前も丸ごと全部」
私の瞳から、涙が溢れる。
涙だけじゃない、もう溢れ出して止められない。
「私も、好き。ずっと、好きだった」
当然のように、唇が重なった。
嶋っちの温もりが心地いい。
夢みたいだ。
「未美の弟には悪いけどさ、今からその荷物持って、俺んち来ない……?」
「……うん」
嶋っちは「やっぱり俺が持つ」と私の荷物を引き受け、反対の手は私と繋いだ。
「嶋っちの手、あったかい」
近くて遠かった温もりは今、本当に私の一番近くにある。
この温もりを絶対離すまい、と思っているのは私だけじゃないと、強く握り返してくれた彼の手がそう言ってくれたような気がした。


