近くて遠い温もり


「だから……付き合ってない。これから行こうとしているのは、弟の所」

「弟……?」

「うん……」

嶋っちは「なんだ弟かよー」と言って項垂れた。ふわりと、整髪料の香りがする。

「でも、弟でよかった」

顔を上げた嶋っちは、ほっとしたように微笑んでいた。


「な、なんで……? 私が誰と付き合おうと、嶋っちはどうでもいいでしょ……?」

「……ばーか。どうでもいいわけねーだろ」

疑問符がたくさん浮かび上がっている様子が余程おかしかったのか、嶋っちは横を向いてぶふっ、と吹いている。

壁に貼り付けていた手を放すと、今度は彼の指が私の頬に触れた。


「俺が、チキン野郎だっただけ。今も、本当は震えてる」

「うそ……」

嶋っちはいつも、私なんかに興味ないって顔してたくせに。


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