真夜中のパレード



連絡もせず、いきなり店に来るのは
やはり迷惑だろうか?


下手につきまとうようなことをすると、
本格的に嫌われてしまうかもしれない。



でも、彼女自身が
「上条さんも機会があったら来てください」
と言っていた覚えもある。


それに、彼女が今日働いているとは限らない。



前に朝この店の近くを通った時に、
店員の女性がほうきで掃き掃除をしていた。


たしか黒いシャツに、
レースがついたエプロンの上品な制服で。



天音がその制服を着ている姿は、
きっとよく似合っているだろう。


他のどの店員よりも、きっとかわいらしくて
美しいだろう。



もっとも、どんな服を着ていたところで
上条にはそう映るだろうけれど。



急に自分が現れたら、彼女はどんな顔をするだろうか。



――きっと最初は驚いて、困ったように口ごもって。



それからいつもみたいに、
少し照れたように微笑んでくれるだろう。


そう考えると、もう上条には
この思いつきを実行せずに止めることは出来なかった。



普通の客として行けばいい。
そして、彼女がいなかったらすぐに帰ればいいのだ。


「いらっしゃいませー」



扉を開けるとチリリ、と軽いベルの音がした。



店内をぐるりと見渡す。
そんなに広い店ではない。

落ち着いていておしゃれな雰囲気だ。
女性が好みそうなお店だと思った。


そしてひと目見て、天音がいないのが分った。



――そうだよな。
やっぱりいきなり来ても会えないか。


どうせ今日の夜にだって会えるというのに、
想像以上に落胆している自分に苦笑する。


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