真夜中のパレード


 


透子はその時の気持ちを思い出して、胸が痛くなった。


「どうすればいいか分からなくなりました。
目の前が真っ暗に見えて、
もう希望も何もないって思いました」



意外だった。


上条にとって天音という人間は、
いつも穏やかで安定しているイメージだった。


「そんな時Santanaに入って。
私、よっぽど沈んだ顔してたんでしょうね」


透子がくすくすと笑う。



「藤咲さんが私のテーブルに、
チョコレートと温かいココアを置いてくれたんです。

私の注文した物はもう飲み終わってて、
これ間違ってますよって言ったんです」



雨が降った後の、しっとりした空気。

店内に流れる心地いい音楽。

客は他に誰もいなかった。


けれどその時の透子に周囲を見る様子はまったくなかった。




母は、一生このままの状態かもしれない。

意識のないまま、死ぬまで病院のベッドに縛られていくのだろうか。

そう思うと、何もする気になれなかった。



机と向かい合い、ひたすら苦悶の表情を浮かべていた。


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