真夜中のパレード

上条は驚き、すぐに言葉を返そうとした。


そして上条も店内を一瞬見やり、
“藤咲天音”と呼ばれている人間が
二人いることを思い出した。


「藤咲天音というのは……」


その言葉の意味はすぐに分かったらしい。


冬馬と名乗った男はにやりと笑い、
じっと自分を見つめた。



「俺の言ってる天音は、
かみじょーさんとデートに行くから、
爪の手入れしてやった方」



雷に打たれたような衝撃だった。


天音さんの言っていた『友人の冬馬』は、
これ、なのか。


幼い時から仲が良くて、
大切な友人だと、言っていたような気が、
するのだが。


……これ、なのか。


どうにも残念な気持ちが
溢れていくのを否定しきれない。



男は無邪気に歯を見せて笑った。


「どうだった?
綺麗に出来てたでしょ?」



そして、理解不能な言葉を付け足した。


「ねぇ、かみじょーさん」


「……」


冬馬はSantanaを指さし、
にやりと不遜な笑みを浮かべた。


「一杯飲んでかない?」

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