真夜中のパレード
彼のことを考えていたからなのか。
それとも、昼時だからただの偶然だろうか。
カツカツと、靴音が小さく響く。
白いシャツとグレーのストライプ柄の、
スリーピースのベスト。
暑いのか上着は手に持って、
いつものように不機嫌そうな顔で
こちらに歩いてくる男性がいた。
「上条さん!」
ちょうど営業先から帰ってきたばかりのようだ。
透子は彼の姿を見つけ、思わず走り寄った。
「……七瀬?」
互いに気まずくて、しばらくまともに会話をしていない。
突然透子に話しかけられて驚いたのか、
上条は意外そうな表情で彼女を見下ろした。
「あの……本社に異動してしまうって、
本当ですか!?」
一瞬面食らった顔をしたあと、
上条は優しく微笑んだ。
「あぁ、そうだ」
彼の声はやわらかくて穏やかだった。
「さっきもその話をしてたんだ。
上でけっこう揉めてなー」