真夜中のパレード


透子はフロアの人々に向かい立ち、
手をぎゅっと握りしめた。


「今まで」


静まり返ったフロアに、
透子の声が響く。


「外見を偽っていて、すみませんでした」


こういう大勢の人間に注目されて話す行事は、
いつも苦手だった。


クラス替えをして自己紹介をしなければ
いけなくなるたび、
憂鬱で朝から気分が晴れなかった。



「これが私の本当の姿です」



これまでだっていつも、
春に新しい場所の扉を通る時は足元が震えた。


「私は自分の顔に嫌な思い出しかなくて、
ずっと化粧でごまかして出社していました」


だから安心して毎日を過ごすことを知った今、
擬態を捨てる覚悟をするのは相当勇気がいった。


きっとこの先も、また嫌なことはあるだろう。



「だけど、これからは
きちんとありのままの自分自身で、
皆さんに接していきたいです」

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