真夜中のパレード

 ☆




「映画、かぁ……」


部屋に帰った透子は、ベッドの上で寝っ転がって渡されたチケットを眺めていた。


そして、ものすごく迷っていた。



これ以上、天音として上条と会うべきではない。
それは歴然とした事実だった。


今日も本当に疲れた。
嘘を重ねれば重ねるほど、次回会う時はそれ以上の嘘を重ねないといけない。
やがて破綻するのが目に見えている。


いつか嘘をつき通せなくなる日が来るだろう。



家まで送ると言って食い下がる上条を説得するのも必死だった。


結局自分の家とは反対の方向まで車で送ってもらい、そこからタクシーで帰るというかなり無駄な労力を使った。


はっきり言って、これ以上天音が上条と約束を重ねていいことなど何もない。
上条は会社の上司だし、しょせん天音は架空の人物だ。



最後に自分を見送ってくれた時の名残惜しそうな彼の笑顔を思い出し、胸がきゅっと切なくなる。




「……上条さん、本当に天音が好きなのかなぁ」



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