真夜中のパレード
失言に気づき、必死に取り繕う。
確かに、飲食店で働いているなら土日は忙しいはずだ。
「あの、土日はたまに習い事に行ったりもするんです!
なので、それに合わせてお仕事のお休みをいただいて!」
「そうなんですか」
「はい、今の職場、人も多くてお休みはけっこう自由にとれるんですよ!」
すると当然の質問が上条から返ってきた。
「何の習い事をされているんですか?」
透子は再び凍りつく。
もう何も聞かないで、と言いたい。
帰ったら今日ついた嘘をメモしておかないと、設定を忘れてしまいそうだ。
非常に面倒だ。
「えぇと……お料理教室、です」
「そうですか!」
「はい! ちょっとは料理も出来るようにならないと、と思って!
先生が優しくて、楽しいんです」
「どんな料理を作るんですか?」
「え、えーっと、えっと……ビ、ビーフストロガノフ、とか?
ちょっと家庭料理より、本格的な物を!」
ここらへんは完全に想像だ。
そもそもビーフストロガノフがどんなものかはっきり知らない。
「今週の土曜もですか?」
「いえ、今週は特に何もありません」
その言葉を待っていたというように、上条がにっこりと笑う。
「それでは天音さん」
「はい」
「土曜日、一緒に映画に行ってもらえませんか?」
そう言って、彼は映画のチケットを二枚差し出した。