禁じられた放課後
未来への約束



揺れるカーテンの向こう側を眺めるその様子に、なんとも胸が痛くなる。

すれ違いに部屋を出た初対面の女性に軽く頭を下げると、数歩進んでからその人物が誰なのかを我に返り知った。



「婚約者か」



問いかける直哉の声に振り返った山根は、白いシーツに降り注ぐ日差しの反射を顔に受け眩しげに口元を緩める。



「奈緒美といいます」


「そうか。優しそうな人だな」






広めの空間にベッドは二つ。

相部屋だが今は山根以外の患者は入っていないようだった。

向かいの棚が空なせいか目に映る白はやけに強調され、独特の香りを帯びた風は静かに病室内を流れている。



小さな丸椅子に腰掛けた直哉は、フッとひと息吐きながらも結局は何も言えずに口ごもることを繰り返していた。

何を言えばいいのか。

今さら謝ることすらお門違いな気がしてならない。




早川と鞘野が結婚を目前にしていた時期があったことを、直哉はあの日の病院で浦辺から聞かされていた。

その事実は山根ももちろん知っている。

だからいつもあのメンバーで飲みに行くと異様な雰囲気が漂っていたのだ。



結果的に許されない行動に出てしまった鞘野だが、決してそれを攻めることができる立場ではないことを直哉は思い知らされていた。

たまたま衝動的に動いてしまったのが鞘野で、たまたまその相手が早川だったのだ。

もしかすれば自分だって、鞘野と同じようなことを美咲にさせていたかもしれない。

巻き込んでしまった山根を見れば、また複雑に胸中が騒いだ。




< 114 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop