禁じられた放課後
温度を下げた風にタバコの煙りが吸い込まれて行く。
会議室の灰皿には伸びるばかりの煤けた光。
手の内に見えるライターの炎だけが、その暗闇に小さく明かりを灯していた。
「それでいいですね、吉原先生」
くわえタバコでその場を去ろうとする早川の後ろで、直哉は黙って二度うなずいた。
涼香を想うからこその判断。
それは必ずしも間違ってはいないはず。
放課後の二人の時間を、直哉は早川に受け渡した。
「受験生の彼女に今必要なのは英会話では無い。最近ミスの多い数学を徹底的にやった方が彼女のためですよ」
不適に笑う。
そして早川は一度足を止め、直哉に耳打ちした。
「新任の教師が担当すると問題になりやすい。放課後を使っての予備学習なら普段から関わっている教師の方がいいんですよ。私は三年生を担当していますからね。それに少しくらいの英会話なら私にだって教えられます」