禁じられた放課後
わずかに聞こえていた教室の会話も、玄関を出れば耳を塞ぐ必要さえなくなっている。
それでも涼香は不安な感情を止められなかった。
誰かに自分の迷いを聞いてもらいたい。
その対象が直哉なら、直哉本人に相談などできないのだ。
定期的にだけ行われる星を眺める会。
その活動場所に涼香は足を向けた。
話し相手を、見つけたかった。
体育館の隅に建てられた小さなログハウス。
緑の茂った木の下でひっそりと柔らかい空気を纏っているその場所に、人の気配はない。
ただ、鍵をかけられたガラスケースの中の望遠鏡は、沈んだ部屋の中でわずかに艶を見せていた。
遠く宇宙の彼方を見ることができるのに、こんなにも近くにいる人の心は見えない。
涼香は星座盤に指を置く。
水瓶座の存在はたったひとつ。
そんなひとつの運命を、たとえわずかな可能性だとしても共有している二人。
涼香は膝をついて声を漏らした。
抑え込もうとする想いが、止めどなく溢れ出す。
「……先生。先生が好き、ずっと側にいたい。何もいらないなんて思ってたけど、そんなんじゃ…もう… …」
口元で握りしめられる両手の上を、星の滴が静かに流れた。
想いが膨らむほどに気持ちが上手く伝わらない。
言葉は、こんなにも不自由なものなのだと涼香は感じた。
定められた境遇を過去に戻って直すことはできない。
今のこの関係が、変えられない現実だった。