クールなお医者様のギャップに溶けてます
昼休み、食堂でお弁当を広げていると向かいの席に座っている花絵が人の顔をじっと見てくる。

「何?」

「それはこっちのセリフ。朝礼の時、急にいなくなったのは何で?その後も亜樹の担当患者さんが内視鏡室から呼ばれたのに、なんだかんだ言って逃げたでしょ?迎えにも行かないし。あれって神野先生に関係あるんじゃないの?」

鋭い。
ちょっとした変化を見逃さない花絵は看護師として本当に優秀だと思う。
だから隠し事をするつもりはないんだけど、たまには隠したい事もある。
頭のいい花絵だから聞いていい事と悪い事は区別してるんだろうけどさ。

「3年前、師長に言われて大学病院へ研修に行かされたの覚えてる?」


3年前
看護師になって3年目の夏。
仕事を一通りこなせるようになって、仕事に慣れが出始めた頃、師長に呼び出された。

「内視鏡検査の仕事を覚えてくれないかしら。」

その年の夏、ボーナスを貰った直後に外来の看護師が一気に2人辞めたせいで、外来の看護師が担当する検査補助の人数が足りなくなってしまった。
経営状態が悪く、条件の悪い当院には求人を出しても来ない。
現状は、病棟の看護師を外来にヘルプで行かせているけど、それでも検査の補助が出来る人員には限りがあった。

「来週から2週間、大学病院で研修を受けて来てちょうだい。」

院外での研修?
院内で教えてくれればいいのに、と思ったけど、院内で新人に教える時間と人手はないと言う。

素朴な疑問として、何で私だったのかは今でも謎だけど、きっと師長には私が仕事に飽きていたのがばれていたんじゃないかと思う。
当時、転職も考えていたし。

「スキルアップに繋がるわよ。」

その師長の言葉に惹かれて翌週から院長の関わりのある大学病院へと研修に行くことになった。

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