碧い人魚の海

 21 自由の値段

21 自由の値段


 貴婦人がお茶を淹れ終ってルビーと向かい合わせにテラスの小さなテーブルについてやっと、ルビーは質問を口にすることを許された。

 まず、自分の置かれた状況がわからない。
 また、このお茶のあと、どこに行かなければいけないかも何をしなければいけないかもさっぱりわからなかった。貴婦人はゆっくりなどと言ってはいたが、ルビーとしてはここで質問の時間がどれだけ取れるのかがわからなかったから、頑張ってなるべく上手くまとめて聞くしかない。
 聞きたいことはいろいろあった。

 貴婦人はカップを持ち上げて優雅な仕草でお茶をひと口飲んでから、逆に聞き返してきた。
「なあに? 人魚はわたくしの提案が不満だったの?」
「不満とかではなくて」
 懸命に考えて、ルビーは何とか言葉を紡ぎ出す。
「どうしてあたしを買い取って、なのに見世物小屋に通わせるとかおっしゃったの?」

「あなたを買い取ったのは、あなたを手に入れたかったから。軽業を習うように言ったのは、あなたがそれを希望していたから。ほかに質問は?」
「答えになってません」
「どうして答えになっていないと思うの?」
「何のために奥さまは、そうなされたいと思ったんですか?」
「では人魚。どうしてわたくしがあの見世物小屋に関わっているのかあなたにわかる?」
「えーと……わかりません」

「見世物小屋に関わっているのはわたくしの楽しみのためで、あなたを買い取ったのはその一環っていうのかしら。座長さんたちをはじめとした小屋を切り回している人たちと上手くやっていくために、いい方法だと思ったからよ」
 貴婦人は微笑んだ。
「わたくしはよい顧客でありたいの。なぜって、座長さんたちはとても愉快な方たちでしょう?」

 ルビーは顔をしかめた。
「あの人愉快ですか?」
「人魚は座長さんが嫌いなの?」
「少なくともあたしにとっては愉快な相手じゃないわ。奥さまは、座長の力の及ばない安全な場所から見ているだけだから、そんな風に言えるんだと思います」

「まあ、そうね。あなたの言うことはわからないでもないわ。確かにわたくしは外側から見ているだけですものね」
 薄茶色の瞳が笑いを含んで、ルビーの碧の目を覗き込んできた。
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