誘惑して、キス


頭の中でそんなことを考えていると、先生が口を開いた。

「大人な女なぁ……俺はお前のことを子ども扱いしたことなんてないんだけどな」

「え?」

ほんとうに?いやいや、でも。

「そんな目で見るなよ」

「だって、」

つい先生を睨むように見ていたようだ。先生はそんな私を見てクスリと笑うと、大きな手を伸ばして私の頬を両側から潰す。

まるでタコのような口をした私を先生はさらに笑った。


「こういうことを、子ども扱いと言うんじゃないかと……」

考えてみれば。

普段から先生はよく私の頭を撫でたり、私がテレビを見ている最中についうとうとしようものなら、まるでそれを促すように心地よいリズムで背中をトントンと叩く。

これを子ども扱いと言わず、何と言うのだろう。


「それは子ども扱いじゃない」

「だったら何ですか?」

追求する私を見て、先生が口を緩やかにカーブさせる。

得意気な、それでもってちょっとだけ意地悪そうな顔で笑うと、その形の良い唇を私の耳へと近づける。

そしていつもより低い、仕事中には絶対に聞かせることのないとっておきの声で言った。


「これは愛情表現だ」




納得出来るような、出来ないような。

でも、愛情表現と言われて嬉しくないわけはない。だってその行動が、先生にちゃんと愛されているという証拠なのだから。

……他の人にはわからないだろうけど。


「まだ納得してない顔をしてるな」

「そんなこと……」

ないはずだけど、やっぱり表情に出ているのかもしれない。だとしたら、やっぱり私はまだまだ子どもだ。


はぁ、とひとつため息。

すると先生が閃いたように口を開いた。



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