天狗娘は幕末剣士
「……まあ、お前があいつを想ってるってんなら、早く自分のものにしちまえよ。
杏子のことを好きなのは、おそらくお前だけじゃねえみてえだからな」
「え?」
「なんだ、気付いてねえのか。
総司も、たぶんお前と同じ様に杏子を想ってるぞ」
「っ!」
沖田が?
確かに、杏子の事はよく気に掛けてるとは思っていたが……
「あの様子じゃ、相当杏子に惚れ込んでるな、あいつは」
そう言うと、土方さんはまた楽しそうに笑った。
「頑張れよ、斎藤。
だが忘れるな、局中法度“私ノ闘争ヲ不許”。
くれぐれも、杏子をめぐって法度を破るようなことはするなよ」
「それは絶対にありえません」
「ああ、お前に限ってそんなことはねえと思ってるがな」
その後、土方さんは割りとすぐに俺を部屋に帰してくれた。
部屋に戻る時も、気付けばずっと杏子の顔を思い浮かべていた。
「……俺も、相当惚れているな、あいつに」
そう呟いて、自嘲するように薄く笑った。
ああ、いつから俺は、こんなにも杏子を想うようになっていたんだろうな。