真実アイロニー【完結】


きっと、小早川は彼だけを好きでいる。


だから、どんなに想っても無駄なんだって。



華奢な彼女の体にしがみつく様に、ぎゅうっと抱き締める。
これ以上力を込めたら潰れちゃうんじゃないかって思う程に。



「先生、ありがとう」



俺の背中に腕を回した小早川が、耳元で囁いた。



感謝される事なんて、してない。
きっと、俺の方が小早川に救われてる。



それを小早川はわかってない。



ふっと、彼女は窓の外に視線を向ける。
真っ暗闇。
そこにきらりと光る星を見つめていた。



そして、無意識に触るのは右耳の赤いピアス。


彼女が触れてるのは、ピアスじゃない。
きっと、琥珀君だ。


小早川の腕を取ると、その細長い指に自分の手を絡み合わせる。

窓から視線をこちらに向けた彼女に、優しく口付けをした。



「好きだよ、小早川」


そう、囁く。

小早川が薄く微笑んだ様な気がした。
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