『本気の恋愛』始めましょ
 東洋の神秘。

 ミステリアスな雰囲気を醸し出すサラサラストレート。

 そんな煽り文字に騙された私は…大きな溜め息を零す。トイレの化粧直しのブースは他の場所よりも明るくライトが照らされていて…。ミステリアスどころか夏休みの中学生のような頭を晒している。

 ただでさえ、子どもっぽいと言われ続ける私がこのような髪形で会社に行くと周りの反応が想像出来て怖い。思いっきりからかわれる。

 何度目かの溜め息を零して、トイレを出るとそこには一番会いたくない顔がある。このタイミングの良さに自分の運のなさを感じた。でも、考えてみれば、この時間にはたくさんの社員が出社しているから仕方ないけど、その中でも一番会いたくないのが…彼だった。

 片江計都(カタエケイト)25歳。

 会社の同期の計都の視線は私の髪で止まっている。そして、私の方に近づいてくると、ニッコリと笑った。何か言いたげな表情に、私はその顔の前に右手を出し制止する。

「何も言わなくていいから」
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